『動く指』ロマンス要素多めのミステリー〜アガサ・クリスティ

『動く指』ロマンス要素多めのミステリー〜アガサ・クリスティ

アガサ・クリスティ『動く指』紹介&読書感想

動く指』は、アガサ・クリスティ自身が挙げた自薦十作品のうちの1つだそう(本書解説より)。

ミス・マープルシリーズの1つですがマープルは終盤まで登場せず、元軍人のジェリー(イケメン)が主人公として事件を追います。

読後の印象は「おもしろかった」より「良い話だった」というほうが強い。ストーリーも小説の舞台も、なんだかドラマか映画を観ているような、そんな作品でした。

ロマンス要素多めのミステリーです。

目次

『動く指』のあらすじ:平和な片田舎で、不気味な手紙と服毒自殺

語り手は、飛行機事故で怪我をした元軍人のジェリー。医師から田舎での静養を勧められ、リムストックという町で妹のジョアナと共に暮らし始めた。

平和そうな片田舎。「こんなところでいやな出来事が起こるとは思えないわ」と話すジョアナだったが、それからわずか一週間後、兄妹を下卑た言葉で中傷する匿名の手紙が届く。

最初は手紙を面白がる2人だったが、実はしばらく前からあちこちの家に、匿名で同じような手紙が届いているらしい。

町に不安が広がるなか、1人の女性が服毒自殺を遂げてしまう。

遺書は残されているが、しかし、本当に自殺なのだろうか?

ジェリーが知恵を絞りながら真実をつかもうとする。

傷痍軍人のバートンが療養のために妹とその村に居を構えて間もなく、悪意と中傷に満ちた匿名の手紙が住民に無差別に届けられた。

陰口、噂話、疑心暗鬼が村全体を覆い、やがて名士の夫人が服毒自殺を遂げた。不気味な匿名の手紙の背後に隠された事件の真相とは?

ミス・マープルが若い二人の探偵指南役を務める。(解説 久美沙織)

『動く指』(早川書房 クリスティー文庫)

『動く指』の読みどころと感想

マープルが出てこない

最初の感想これ。笑 いや、出てくるんですが、物語がかなり佳境に入ってからです。いったいいつになったらマープルが出てくるんだろう? と、読みながら何度も読んだページの量を確認してしまいました。

いちおうマープルシリーズですが、マープルは脇役。最後のひと押しだけちょっと手助けしました〜みたいな役回りです。

マープルほどは鋭くないけど勘の良いジェリーが自分の目線で事件を捉えて考えていくので、読者も同じ目線で読み進められるのが面白さの1つですね。

リムストックの人間関係に味がある

田舎町リムストックでの人間関係、アガサ・クリスティが描く登場人物たち、相変わらず良いですね。いつの時代もこういう人っているんだなぁと思わされたり。自分の価値観が第一でおしつけがましいエメ・グリフィスとか、あーいるいるっていう。

それから、興味深かった一節。

「たぶん、新聞の身上相談によくあるような問題だったんじゃないかな」と、私がいった。「恋人が最近急に冷たくなったのですが、どうしたらいいでしょう、といったやつだよ。

『動く指』(早川書房 クリスティー文庫)196ページ

ジェリーの発言なんですが、これ、こういう相談今でもありませんか? 新聞じゃなくて Yahoo! 知恵袋とか教えて! goo とかに出てきそうな。

恋人が最近急に冷たくなったことを新聞とか掲示板とかで相談するってことが、昔からあったんだなーって。

エメ・グリフィスの性格同様、80 年近く前に書かれた作品なのに現在でも共感できるなんて、人間という存在に感慨深さを覚えます。

アガサ・クリスティの小説には、こういう「今でもあるのに何十年前もあったの?」的な例がたいてい出てくる気がしますが、それが毎回私の胸を打ってきます。

恐るべきデイン・カルスロップ夫人

司祭の妻、デイン・カルスロップ夫人。町じゅうの人々に恐れられていて、事件担当の警視ナッシュには「あからさますぎる変人」と呼ばれるおばあさん。

でも結局マープルを呼ぶのも夫人だし、最初のうちからある部分では見抜いてるし、この人が実はリムストックで一番のキレ者なんじゃないでしょうか。

最後まで読み終わってから、夫人のセリフは読み直しました。

追記:
デイン・カルスロップ夫人は『蒼ざめた馬』にも登場しています。こちらでも本質を突く切れ者的な人物で、派手な扱いではないものの重要な役割を果たしています。

『蒼ざめた馬』その意味は? 魔術で人は殺せるか~アガサ・クリスティ

『蒼ざめた馬』その意味は? 魔術で人は殺せるか~アガサ・クリスティ

アガサ・クリスティ『蒼ざめた馬』を読みました。テーマは「魔術で人を殺せるか?」。殺せるわけはないはずなのに、実際にターゲットは病気にかかって死んでいる。

タイトル『動く指』の意味とは

原題は “The Moving Finger”。

文庫の解説のなかでこの意味について少し触れられてはいますが、作品の中でこのタイトルを想起させるような具体的な描写はありません。

私も読み終わって結局「動く指」ってなんだったんだろうと思いましたが、私が読みながらイメージしたのは「犯人がタイプライターを打っている、動く指」。

暗闇の中、不気味な手紙をタイプライターで打っている。そんな不気味な指をイメージしました。

まとめ:マープルの出番は少ないけど満足度高

『動く指』は 1942 年に刊行された作品で、マープルシリーズ長編の第3作です。アガサ・クリスティの恋愛が入る系の作品は個人的には好きなので、楽しめました。

地味な点ですが、解説に読み応えがあるのも良かったです。おもしろい。小説の解説ってたまに、これ解説になってなくない? とか、意味不明なものもあるので。。

マープルの出番が少ないのでマープル好きな人には物足りないかもしれないけど、クリスティ自身がおすすめする作品というだけあって読後満足感は大きいと思います。

アガサ・クリスティの読書感想一覧

『動く指』ネタバレあり感想

アガサ・クリスティ『動く指』ネタバレ感想

最後のマープルの謎解きで、シミントン夫人の遺書にある「生きていけなくなりました」(I can't go on)というフレーズが鍵の1つと明かされますが、この部分は日本語だと伏線にならないので、読者が自力でピンとくるのは難しいですよねー。。

こういうとき、原文で読める英語力があればなぁという気持ちになります。

それにしても、ミーガンが犯人じゃなくて本当に良かった!

読者 100 人中、少なくとも 99人はそう思ったんじゃないだろーか。いやぁ本当に良かったよ。わたしゃ最後の直前くらいは半分諦めてたよ... あぁやっぱりミーガンなのかなって。

この本を読み終えたら、ミーガンを好きにならずにはいられません。そうじゃないですか?

最後、マープルの犯人逮捕の危険な仕掛けにも協力して、本当に良い子。

ジェリーとミーガンの結末にも胸がいっぱいで、もう、素敵~!好き~~!!笑

元軍人のイケメンと田舎娘をくっつけるという、ちょっと間違えれば強引だと非難されかねない展開ですが、ミーガンの魅力やジェリーが惹かれるエピソードが丁寧にたっぷりと描かれていて。

映画的なロマンスをミステリーと両立させていて、アガサ・クリスティならではの離れ業だなと思いました。

ジェリーだけじゃなく妹のジョアナもハッピーエンド。女性読者が大好きな終わり方に持っていきましたね~。

殺人事件ではありますが、読後感はさわやかですっごく気持ちの良い作品でした。

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